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名古屋国際会議場のサステナブルな取り組み

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尾張仏具 伝統工芸士 岩田 康行 さん

受け継ぐ伝統と今の生活に変える挑戦 神具職人 岩田三宝製作所 岩田康行さん
受け継ぐ伝統と今の生活に変える挑戦 神具職人 岩田三宝製作所 岩田康行さん

熱田の地で“三方(さんぼう)”をはじめとした神具を長年作成している
岩田三宝製作所 7代目の岩田康行さん。
従来の神具づくりのみならず、海外進出や技術を活かした日用品の開発など
多岐にわたる挑戦を繰り返しています。
※三方とは、神事において使われる神饌(しんせん:供物)を載せるための台のことです。

遊び場から仕事場へ 伝統産業を継ぐという選択

「三方」を始めとする神具は、私たちには特別なものに感じますが、岩田さんにとっては昔から身近だったのでしょうか。

はい、僕の場合は物心ついたころから作業場が遊び場のようなもので、よく先輩職人の真似をして過ごしていました。小学校に上がると夏休みや冬休みに修学旅行のお小遣いを得るために作業を手伝うようになり、 “お金を稼ぐ”ということや、”この仕事がどのようなものか”ということを、幼いながらに身をもって経験できたと思います。

岩田さんがいずれ家業を継ぐというのも自然な流れだったのですね。

特に祖父母が僕に七代目を継いでほしいという気持ちが強く、会うたびに「七代目になるんだよ」と言われて育ってきたので、刷り込みというか「あぁ、僕は継ぐんだな」と自然と思っていました。

実は学生時代は自動車関係の仕事にも興味を持ち、工業系の大学に進みました。
就職活動の時期は、周りの多くが当然のように自動車関係を就職先に選んでいました。そんな中、伝統産業という珍しい環境で育った自分が、その道で何かを形にすることが出来るのなら、とても魅力的なことだと思うようになりました。幸い祖父が先を見越して事業を始めていたこともあり、家業を継ぐことに迷いや不安はありませんでした。

三方には樹齢300年のヒノキが使われている

そうして大学卒業から今まで、三方づくり一筋でお仕事をされてきたのですね。
仕事をする上で、どのようなことを大切にされていますか。

たくさんの便利で新しい“モノ”が生活に取り入れられるようになったこの時代ですが、もし「やっぱり日本古来のものや文化っていいよね」という考えが生まれたとしても、昔の状況に戻すこと自体は今の生活に合わないでしょう。

“今”の生活に合う道具をつくり、魅せ方を考えていかないと、人の生活や考え方には合いません。“古き良き”を残すのはもちろん大事ですが、着物から洋服に変わっているように、道具についても現代の生活に合わせた「変化」を提案していきたいと思っています。

新商品の開発、海外進出、協業・・・挑戦し続けた10年間

お客さんの声をきっかけに生まれたコースター

そのための岩田さんにとっての“挑戦”が、デザイナーの方をはじめとした様々な方との協業や、今までにない新商品の開発に繋がっているのですね。

そうですね。10年ぐらい前に問屋さんの倒産が相次ぎ、「今までのような仕事をしていてはまずい・・・」と危機感を持ったことがあって。勉強会に参加したり、マーケットなどへ出店して直接お客さんと話す機会が増やすなど、積極的に動くようになりました。

お客さんのほとんどは「三方って何?」という反応で、神具の認知度の低さを痛感するとともにもっと響く商品を届けたい!と感じました。三方を作る際に使うヒノキとその加工技術を活かして、コースターやトレーなど生活の身近にある新商品の開発を行い、ジャンルの幅が次第に広がっていきました。

他都市で出店をしていると「この商品作れますか?」などと声をかけていただくことが次第に多くなりました。同時にいろいろな情報を得ることができ、知識が広がるだけでなくネットワークも広がり、新たな商品を作るきっかけにも繋がっています。

今は海外を視野にした商品開発にも力を入れておられるそうですが、この“挑戦”に至ったのはなぜですか。

日本では既に“曲げわっぱ”などで市場が形成されており、今から何か提案したとしても二番煎じ感が否めないように感じました。飽和状態ということは「0か100か」の勝負になるということ。それならば思い切って海外に展開した方が、逆輸入を受け入れやすい日本人の特性から考えても勝機があると考えました。

海外での反応は日本とは全く違いました。海外にはヒノキのような白い木がほとんどなく、その軽さに心配されることは多々ありますが、北欧では元来より木の文化が根付いていることもあり、受け入れられやすいという感触です。

家具などは直線の木を使用することがほとんどで、木を曲げる技術は珍しいため展示会などで関心を集めることがあります。この技術を説明するときに神具の加工技術や神道が日本の文化であること、“日本にしかないストーリー”を伝えることで感動に繋がり、僕たちの技術だけでなく日本文化を知ってもらうきっかけにもなっています。

ボトルクーラーには三方の曲げ技術が活かされている

デザイナーと協業を始めたきっかけはありますか?

とあるデザイナーさんから「個展で長野県高遠町の昔話に登場する酒器を再現するから力を貸してほしい」というオファーがあったことです。これがきっかけでボトルクーラーを作成し販売するようになりました。デザイナーがイメージするものを作り上げることが楽しくて、 “どのように魅せるのか?”を考えて商品を作ることの大切さに気付かされました。

デザイナーが求めるものを具現化できるのは、職人である僕の価値だと思いますし、「まさかできるとは思わなかった」と言われることが嬉しいです。

本来は僕たち職人と、デザイナー、販売者の三者がチームになって商品開発ができるのが理想だと考えています。僕たちは販売のプロではないし、販売した後のフォローや市場の意見を吸い上げることができていない。いいものを作り届けるには、ターゲットの需要に合った商品づくり、現代の生活様式に合ったものを作ることが必要だと思います。

“知る機会”の創出が鍵

今後してみたいことはありますか。

現在は一年に一回、小学校6年生を対象として、卒業写真を入れるフォトフレームの体験会を行っています。こういった体験会を定期的にたくさん開催し、子どもたちが地元の工芸に触れる機会を作りたいです。

次の世代に繋ぐためには「知ってもらうこと」が何よりも大事だと考えています。子どもたちが学校で作ったものは、必ず持ち帰るので家庭でも話題に上がるかと思います。

家族という単位だけだとしても、共有することで今よりもはるかに「知ってもらう機会」は増えます。もしこれが全校、全学年、全生徒で体験ができると考えるとその効果は絶大です。だからこそ、学校にその機会を提案・提供していきたいと考えています。興味を持った子が将来こういった仕事を選択する可能性も出てくるかもしれません。

3人のお子さんがいらっしゃる岩田さんにとっては、大きくもあり身近でもある夢ですね。

そうですね。子どもたちには、苦労ばかりしている姿よりも楽しく笑って仕事をしている姿を見せていきたいと考えています。苦しいことがあっても、得られる知識や感動はそのまま商品にダイレクトに流れ込むので、それが彼らにも伝われば良いなと。その上で、将来一緒にやりたいと思ってくれれば嬉しいです。
子どもたちが今思い描いている将来の夢はこの業界ではないけれど、その夢と掛け合わせて何か新しい商品が作れたら、とても面白いことだと思います。

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